はじめに
手持ちのGFレンズレビュー、とうとう大トリGF110mmをご紹介する回になりました。現在の純正レンズはGF32-64mm、GF50mm、GF110mmの3本。この構成で1年以上経過します。これまでは割と頻繁にレンズを入れ替えて楽しむタイプでしたが、この1年は安定していました。(中判フィルムカメラを数台購入しているので矛先がそっちに向いていただけとも言えますが)
私の好みの焦点距離は40mm〜75mmまで。換算87mm相当のGF110mmは少し外れていますね。しかし使えば使うほど、使うたびに「あぁ、いぃ…」と思えるのです。
レンズレビューで私がよく使う評価基準は「信頼できる」かどうか。この信頼といのは所謂プロの方の求めるものではなくて、満足させてくれるかどうか、気持ちよくなれるかどうか、使っていてアドレナリンが出るかどうか、等々を一言で表現したものです。このレンズなら期待に応えてくれるだろう、に対する信頼。1年レビューまでたどり着いたので当然GF110mmもこの基準に該当する、信頼できるレンズです。GF110mmって、GFXシステムって、こんな写真が撮れるんだー!と皆さんに思っていただければ幸いです。
ちなみに購入当初に興奮のまま書き綴ったファーストレビューもあります。評価項目が今回と重複する物もありますが、購入の経緯も書いたりしているのでよければどうぞ。
※レビュー内容と写真はあんまり関連無いです。
驚異の純正GFレンズ
ではさっそく結論から。このレンズは凄いです。純正GFレンズは単焦点/ズーム共に大変高性能でありますが、その中でもGF110mmは一線を画す描写です。解像、階調、ボケ、全て私の経験してきたレンズで最高ですし、それぞれの要素が綺麗に描写として纏まっています。その結果、撮れた写真の画素1つ1つがしっかり生きているんですね。
最近のスマートフォンは1億画素や2億画素の機種があります。当然、GFX100Sを使っている身としては気になる訳です。大枚叩いてカメラとレンズを揃え、重たい機材を持ち歩いて写真を撮っているのですから当然ですよね。スペックシート上では同じ数字ですし。で、レビューサイトで等倍画像を確認し、モンニョリした描写を見て安心するんです。私はこのモンニョリした残念な画像は「画素が死んでいる」と呼んでいます。
「いやいや、誰も等倍画像で鑑賞なんてしないでしょ」「スマホで見れば分からないよ」というご意見は当然でしょう。分かります。ただこれは私の言葉ではなく『なんでも鑑定団』というTV番組の受け売りの話なんですが、確か伊藤若冲の絵のニセモノに対する鑑定士のコメントで
ほらこの目(鳥の絵だった)を見てください。目が死んでいますよね。それに背景の草(だったと思う)も生気がなくてヒョイと抜けそうですよね。これじゃ後世には残せない。全然ダメ。そういうことです。
というものがありました。子供だった私でもスンと腑に落ちる説明でよく覚えており、大人になってGFXを使うようになってから「あの解説はGFXにも当てはまる!」と思い多用しています。ちょっと話が逸れた気もしますが、言いたかったのは生きた画素1億個を集めると凄いよ、ということ。私は「凄みがある」と表現しますが、人によって「立体感」「空気感」「xxx」に置き換えられると思います。
お手元スナップ。ユーザーを綺麗にぼかしつつ、メインをグッと捉える。シャドウ、ハイライト、ボケ、全てに情報がある。私の好きな撮り方の一つです。
各種レビュー
さて、ある程度言語化したつもりとは言え、スゲーヤベー言うだけならウチの保育園児でも出来ます。ここからはいくつかポイントをピックアップしてレビューしていこうと思います。
サイズ感・質感
サイズ感について、これは使う人によって感想は違ってくるでしょう。重量は1010g、全長125.5mmという部分は普遍なので、描写云々よりはシミュレーションはしやすいかと。350ccよりちょっと太い1kgの筒を運用すると…?と考えてみて下さい。私はレンズとボディ2kg以下なら一日スナップしてもまぁ耐えられるので問題ない事にしています。GFX100Sとの組み合わせの場合、サイズ面で運用に不都合を感じたことはありませんが、見た目はGF80mmぐらいの方がバランスが良くて好きですね。
レンズの作りは描写とは異なり、標準的なGFレンズといったところ。一番優れているのはピントリングを回した時の感触でしょうか。大きなラバーで掴みやすく、適度なトルクで回しやすいです。最も悪いのは(もう何度も言っていますが)絞りリングの感触。スカスカのカスカスで官能性はカケラも感じません。ピントリングは回すだけでいい気分な反面、絞りリングは一気に盛り下がり撮影意欲が減退します。定価ウン十万円するプロダクトとは全く思えません。新品の頃は多少マシだったのかもしれませんが劣化も酷い。GF50mmやGF32-64mmの方が圧倒的に良いです。残念極まりない点です。リコールして欲しい。
また、富士フイルム製中望遠〜望遠LMレンズ特有の、電源OFF時にレンズの中身がガコガコ動く問題も健在です。メーカーさんは大丈夫だ問題ないとアナウンスしているそうですが、実際に手に持って振ると全然大丈夫ではない、大きなものがレンズ内で動いている感触が伝わってきて怖いです。確かに1年使って不具合はありませんが「この動く部分がぶっ壊れる前に売っぱらおう」と思わせる感触です。(確かこの機構を初期に搭載したのはXF90mmだったの思うので、末路がどうなったかウォッチしておこうかな…)
さっそくこき下ろす内容になってしまいました。。。が、文句を言いたいポイントはここだけです。後はご安心してお読み下さい。
防塵防滴
普段から積極的に雨天で使うタイプではありませんが、必要があれば迷いなくビシャビシャにしてきました。記憶にあるのは過去2回で雨の伏見稲荷と大雨の鈴鹿サーキット。特に鈴鹿ではF1のフリー走行を丸1時間撮っていたので、思いっきり濡れました。ボディのファインダー内が曇ったものの、それ以外には全くの不都合無く動作してくれたので、個人的には結構ちゃんと使えるのだなぁという印象です。ただしシーリングはそのうち劣化するもの、いつまでこの効果が維持できるか分かりませんが…とりあえず新品なら安心でしょう。
ちなみに、GFXでも頑張れば(初挑戦でも)これぐらいは流し撮り出来ます。サーキットやレースのいろはが分かっている方なら、もっと上手く撮れるんでしょうね。モータースポーツも辛うじて撮れると言えるでしょう。
解像
このレンズの最大のセールスポイントの1つです。絞り開放から素晴らしい性能。絞り込むにつれて徐々に解像は上がりますが、誤差の範囲かと。ピークはF5.6で、F8.0まで絞ると回折の影響で少し低下する印象です。解像の向上より、コントラストの最善の方が分かりやすい。F4.0かF5.6が個人的にはお気に入りですね。この数値でもまだボケは大きく「いいレンズ使って撮ったぜ!美味しいところ使ってるぜ!」という、凄みがあってグッとくる写真が撮れます。
この話の流れで予想できるかもですが、こちらは上の葉っぱ写真の等倍画像です。鑑賞サイズではぱっと見分からない蟻までしっかり写っていますね。これが死んでいない「生きている画素」です。ちょっとだけ前ピンかな?
ついでに上の葉っぱの写真、Lightroomのスーパー解像度機能で強化した画像もご紹介しましょう。元画像は少しトリミングしているので3.9億画素です。すごいっちゃ凄いものの生気は失われていますね…いずれもっと技術が進歩してから楽しめばいいかな。今の段階で無理やり高画素にする意味はないというのが私の意見です。強化するとファイルサイズ1GB超えますし。
遠景でも、近景でも、絞っても、開放でも。どんなコンディションで撮影しても解像とボケ、階調、etc…、バランスが破綻することはありません。自分の実際の視覚と想像のイメージ、撮れた写真はそのどちらも超えてきます。このレンズの凄さを支える大黒柱はこの解像性能でしょう。
ボケ
このレンズは絞り開放F2.0です。GFレンズ内では80mmF1.7に次いで明るく、ボケ量は多分ナンバーワンだと思います。35mm換算で85mmF1.4相当。あれ?中判カメラの割に大したことない?と思った方。正解です。GFXのセンサーサイズは44mm×33mm、35mm版のフルサイズセンサー比で1.7倍しか大きくありません。フィルム中判の基準である60mm×60mmのロクロクなら4.2倍、セミ版と呼ばれた60mm×45mmの645でも3.2倍。ボケ量は同一撮影距離なら焦点距離とF値とセンサー(フィルム)サイズで決まるので、フィルムに比べるとGFXは35mmセンサーに対し全然アドバンテージが無い事になります。つまり…ボケ量を重要視する場合GFXは最適なシステムではありません。85/1.2や105/1.4、200/2.0、100-300/2.8辺りを使えばより幸せになれるでしょう。もしくはデジタルを捨ててフィルムのちゃんとした中判カメラにするとか…フィルム価格高騰していますが、それでもデジタル用の超性能レンズを買うより安上がりかも?
私はボケ量をそれ程求めないタイプなので110/2.0というスペックで大満足しています。場合によってはちょっとボケすぎかも…と思うぐらい。美しい女性を撮るなら映えるボケでも、それ以外の被写体ではちょっとドリーミーに過ぎる気がしますね。
ボケの質については正確に評価できるほど知識がありません。ですが前ボケも後ろボケも綺麗で、極めて破綻しにくい、と思っています。個人的に前ボケは特に綺麗ではないかと。
ただし1mぐらいの撮影距離で、背景に2線ボケ?っぽい嫌な描写になる場合があります。上のミツマタの写真の右下部分の枝や、下の桜写真の中央左側の枝ですね。他のレンズで撮ったらもっと酷い事になるのかもしれませんが。逆に、描写面での弱点はこの1点だけです。GF80mmみたいな強烈な色収差はありませんよ。
どうでもいいですがセンサーサイズを表す言葉で「フルサイズ」と「ラージフォーマット」は嫌いです。どちらも何に対して?という評価基準が35mmフィルムなのでしょう。しかしフィルムを基準とするならばもっと大きなフォーマットはごろごろしているのに「フル」や「ラージ」ってちょっと恥ずかしい。(APS-Cを含めて)サイズ感が分かりづらいですし。まぁこの辺はメーカーの戦略なのでしょうね。個人的には全部横幅とかサイズの略称で表現すればいいのに、と思います。ロクロクとかM4/3とか1インチとか分かりやすい。GFXなら4433ですかね。
AF
このレンズで最も弱い部分はAFでしょう。精度は良い反面、速度はお世辞にも速いとは言えません。駆動音も五月蝿いです。レンズが頑張っている雰囲気はもの凄く伝わってくるので私は我慢できますが。
駆動音のレパートリーは「ウォンッ!」「キュキュキュキュキュ!」「ウィンッウィンッ!」「ピー!」「カリカリカリカリ!」といったところ。小さな音ですが常に鳴っています。撮影者はもちろん近くに居る人には(静かな場所なら)聞こえるかも。LMを搭載するGF50mmやGF32-64mmと比べても圧倒的に鳴っています。というかこの2本はとても静かですし。。。フォーカス用レンズがデカくて重くて大変なんだろうな、と考えてやり過ごしています。
AF-Sは精度良いです。AFポイントが緑の合焦マークなら十中八九ピントは合っています。昔のフジ機にあった「ピントあってるつもりで撮ったら何処にもピンが無い」現象はGFX100Sになってからほとんど経験ありません。
AF-Cの精度は…悪いです。歩いて遠ざかる子供なら合焦可能、走っている場合は絞ってAF-Sを使います。スポーツや野鳥はもっての外。もちろんレンズのせいだけではなくボディの演算性能の影響もあると思います。ただし、GF80mmみたいにAF-Cを使うとAFモーターがタコ踊りする…なーんて事はありません。あまり動かないポートレートなら十分使えるかと。アクティブに動く場合は無理ですね。そんな感じです。
発色
古い写真雑誌のレンズレビューを読むと「キレが良い」「発色が良い」なーんて褒め言葉が並んでいます。最近の雑誌はで「逆光耐性が高い」が多い印象でしょうか。レンズの光学性能って着実に進歩しているんでしょうね。しかし現代のレンズばかり使っていると基本性能が高いおかげで「キレが悪い」「発色が悪い」「逆光耐性が悪い」が分からないんですね。このレビューは妙に喜んでいるけどフツーじゃね?と思っちゃう。贅沢な話です。幸い?古いカメラやレンズを使うようになってこの「悪い」シリーズは一通り経験したおかげで、今ではレンズの基本性能の高さに感謝しながら使っています。
で、当然GFレンズもこのハードルは楽々OKなわけです。こちらの写真は9月の暑い日に撮った1枚。空気の透明度が高く画面右端にはPLの塔も写っています。空も青が濃くて夏らしい。発色はフツーにいいですよな1枚です。
では何故このレビューで発色の章を設けたかというと、GF110mmは他のGFレンズと比べて発色の傾向が異なるのです。常時ではなく、ホワイトバランスを「オートホワイト優先」フィルムシミュレーションを「ASTIA」の場合です(それ以外のWBでの検証は出来ていません。この組み合わせを外せば回避できるのかも…)。現象としては肌の色が色相はシアン、色温度がマゼンタにかぶり、若干ですが美白補正かけ過ぎ画像みたいになるのです。日焼け止め塗りすぎた肌っぽくなる、とも言えるかな?下の写真はわずかですがその傾向が出たものです。子供の写真を撮ると結構な確率で発生し、健康的な子供の肌ってイメージじゃ無いなぁと思っています。綺麗なおねいさんを撮影する時には良いかもですが。明確な弱点んというわけではありませんが、GF110mmだけでした経験したことが無い傾向だったので取り上げました。
おわりに
レビューは以上です。絞りリングはイマイチ、AFはそこそこ、ボケは一部弱点あり、それ以外の要素は非常に高次元でバランスが取れており、その主軸は解像性能…という内容でした。GFレンズを使っていて思うのはこの「バランス」がとても良い塩梅で、きっと開発者の方はいろいろシミュレートして設計しているのだろうなぁ、ということ。ユーザーとしてはその意図を読み取って上手く使える様になりたいところです。パッと使うだけで簡単に凄い絵は吐き出されますが、細かい要素をちゃんとコントロールできれば1段も2段もレベルアップ出来る力がこのレンズにはあるはず。1年使ってもその片鱗しか掴んでいないのかも…レビュー用の写真を選定しながらそう感じました。おわり。
(レビュー中に貼れなかった写真を最後にペタペタしておきます)
これまでのレビュー
今まで使ってきたGFXシステムについて、いくつかレビューを書いています。よければこちらもご参考にどうぞ。