注意:このレビューはGFX100Sと組み合わせた状態での内容です。GFX100S IIとの話は終盤にまとめて記しています。
はじめに
GF35-70mmはGFX50S IIと同時に発表されたと記憶しています。単品だけでなく50S IIのキットとしても販売され、この場合レンズ代は実質(僕らが好きな単語ですよね)5万円という非常にお値打ちな価格設定でした。既に100Sを所有しているので発売当初はスルーしていましたが、2023年の5月に購入。この辺の経緯はファーストレビューをご覧ください。購入当初は「まぁ気に入らなかったらサッと売っ払ってしまおう。」と思っていましたが、2024年頭の機材入れ替えの大波をかいくぐり、今でも使用率の高いレンズの1本です。
私は機材レビューを1年使い込んだ機材でしか書かない、というマイルールを定めています。プロの方のレビューは定量的な指標で評価されたしっかりしたもの。アマチュアの私が同じ土俵で戦っても劣化コピーにしかなりません。半面、1つの機材を長くしっかり使い込んで好き勝手にお気持ちを述べる、ということはプロには出来ないアマチュアの特権です。私のレビューはこの立ち位置を狙って書いています。折角情報発信するなら読んでくださる方に有用な内容にしたいですから。
(本文中の写真は全てGF35-70mmで撮影したものです。内容に沿った写真の場合もあれば、気に入って掲載しているだけの場合もあります)
結論
正直このレンズのレビューは難しいです。今まで私が使ってきたGFレンズはどれも高性能でバランスが取れており、基本的にその良さを伝えることを念頭においていました。しかしGF35-70mmはそのパターンには当てはまりません。得手不得手が混在する、レーダーチャートで評価したらウニみたいなトゲトゲになってしまうレンズなのです。
どう表現すれば上手く伝わるか考えたところ「ベストエフォートGFレンズ」という言葉が浮かびました。ベストエフォート。もしくは最大瞬間風速。おぉぉこれはよく撮れたGFXスバラシイ!と思える場合もあれば、1億画素のクソ画像が飛び出してゲンナリすることも多々あります。や、他のGFレンズと比較すると打率は確実に低い。
機材を褒める定型文に「○○で十分」「○○はいいぞ」というものがありますね。撮りたい写真によって評価の観点や閾値は変わりますが、少なくとも画質優先のGFXシステムを使うにあたり、このレンズは手放しに「十分!」「いいぞ!」とは言い難いものと思います。なんだかレンズに試されている気もしますね。
うーん、書き出しの時点でこれまでのGFレンズレビューとは毛色が違う…ただし、記憶に残る、めちゃめちゃ気に入った写真はこのレンズで撮った印象が強いです。持ち出しているタイミングが良いのかな。
1年間使い続けた理由
では何故このレンズを1年も使い続けることが出来たのか。決して消極的な理由ではありません。私のGFX運用スタイル「全ての写真をGFXで撮る!GFXはiPhoneだ!」に強烈にマッチしたから。近所のコンビニや薬局に行く時、GF45-100mmはちょっと重いですからね。持ちだすのはこのレンズが圧倒的に多いです。
現在私が所有しているデジカメボディはGFX1台のみ。2019年の年末にGFX50Rを購入してからずーっとこのスタイルです。丸4年と半年…改めて振り返ると結構長いですね。この間幾度となく他のカメラの誘惑にさらされ続けてきました。RICOH GR3x、EOS R50(ホワイト)、PENTAX K-3 Mark III Monochrome、SIGMA fp、LUMIX S9、907x + CFVII50C、PhaseOne IQ160…しかし複数台カメラを所有するとGFXの稼働率が下がってしまいますし、安楽なカメラばかり使ってしまうことも目に見えています。それが嫌なのでGFX1台体制を貫いてきました。どんな時でもGFXを持ち出す!撮る!コンビニ行く時でもGFX!GFXはiPhoneだ!家族のお出かけのお供?iPhone(GFX)でしょう!
レビュー
さて、私の偏向したカメラスタイルの表明はこれぐらいにしまして、ここからは本題です。あたらめて申し上げますが、このレビューは数年間GFXしか使わず、他社の超常的性能を備えたカメラには一切触れてこなかったワタクシの感想です。また、組み合わせたボディは現在旧型となったGFX100Sであります。ボディの性能でレンズの印象は大きく変わりますからね…
サイズ・重量・質感
重量390g、フィルター径62mm、最短撮影距離35cmm、GFレンズとしてはコンパクトで機動力あふるる仕様です。羽の様に軽い!ボディに装着しても重心はボディ側で持ちやすいく、物理的にも精神的にも気軽で持ち出しやすいレンズです。最大撮影倍率0.3というスペックも稼働率向上に一役買っおり、「このレンズならとりあえず何でも撮れる」と信頼しています。中判用のレンズは寄れない物が多いですからね…カメラの写真を撮る場合はこのレンズ一択です(笑
が、中古カメラ屋さんのショーケースで「妙にデカい樽みたいなレンズあるな…なんだこりゃ」と思ったらGF35-70mmだった事がありました。まぁ、そういうことです。
中古品美品で購入してから1 年以上使っていますが、物理的にくたびれた感じはありません。鏡筒を繰り出した状態でもガタはありませんし、各種リングの動作もスムーズ。官能的な感触ではないものの、ズームリングを回す感覚は均一で「あ、しっかり設計→製造されているんだな」と安心できます。細かいことを言えば、沈胴機構を戻した際にストップ位置から少しだけ行き過ぎる感触があり、これは経年と共に少しずつ大きくなってきた気がします。オールドレンズのオーバーインフみたい、と表現すれば分かりやすいでしょうか…どうかな。絞りリングはありませんが、劣化箇所(絞りリングはフジのレンズの弱点だと思ってます)が少ないのは良い事なんだなと気づきました。イタ車には電子制御が無い方が安心、みたいな。総じてビルドクオリティには満足しています。
AF
GFXシステム、単写のAF-Sで被写体が止まっていればAF精度は非常に高いです。このレンズもその例に漏れず優秀。AF速度は他のGFレンズと比較して中の中といった印象です。速い部類ではありませんが、もっともっともーっっと!遅いレンズもありますから。
動作音も中の中。駆動系がDCモーターなのでリニアモーターの様に無音ではありません。小さく「ビビビ…」という音と振動を感じる程度です。GF80mmみたく電動ドリルを彷彿とさせるものではないのでストレスは感じないです。
では動体性能はどうか?これはイマイチです。AF-C + トラッキングモード、全自動のカメラ任せにすると、動く娘ちゃん7歳を捉える事は不可能です。しかし人間の力で軌道を予測し、止まった一瞬を狙えば当たりを掴むことも出来る、それぐらいの性能です。常に移動し続ける、止まらないタイプの子供は撮影出来ません。
描写傾向
ズームレンズだと評価するのが難しい項目です。プロのレビュワーさんではなく私の様なアマチュアだと尚更。なんせ焦点距離×撮影距離×F値の組み合わせだけ評価ポイントがあるわけですからね。定量的に評価するのは難しい…というか不可能です。なので、この章ではレンズの焦点距離に関わらず一貫している事だけ述べようと思います。また、良いところ悪いところは次の章で述べようかと。
上の「結論」の部分で述べている「ベストエフォートGFレンズ」という表現、これは主に描写についてです。めちゃめちゃ綺麗に気持ちよく撮れることもあれば、ドンヨリ濁ってどうしようもない場合もあり、それを表現したものです。落差が激しい。レビューで描写傾向を絶賛できるレンズではありません。総評すると中の中、って感じです。
(収差や歪曲は私があまり気にしない項目なので、レビューでは割愛させて頂きます。)
焦点距離2倍ズームっていいよね。
レンズが巨大になりがちなGFXシステムにおいて、このレンズのコンパクトさは非常に意義あるものだと思います。カメラ1台体制の運用なら尚更。そんな制約の中、便利さとコンパクトさのバランスを取る2倍ズームという選択は非常に好感が持てます。他のGFズームレンズのレンジを見るに、中判用レンズは2倍ちょっとという数値が現実的なんでしょうね。私が個人的に2倍ズームが好き、というだけの話でした。
で焦点距離の話に戻りますが、35mm換算で広角端は28mm望遠端が56mmという使いやすいスペックです。6月の北海道社員旅行、7月の尾道家族旅行、全てこのレンズ1本で挑みました。作品撮りでない普通の旅行なら中望遠域はそんなに撮影シーン無いですしね。トリミング耐性も高いので必要十分です。
(こぼれ話) フジの絵作りで思う事
ここから先は特に私の勝手な考え、思い込み、感想の比重が非常に多くなります。ご理解下さい
富士フイルムカメラの写真は、クリア過ぎずほのかに色に濁りが乗っている印象です。XF50mmF1.0はこの傾向が強く出ているレンズなんじゃないかなーと思っていたり。このわずかな濁りが、なんだか良い雰囲気、ひいてはフジのカメラが色味がいい、エモいと言われる1つの理由ではないかと思っています。で、この「良い味」「ほのかな濁り」の源泉は微細なノイズなんじゃないかな、と。(フォトヨドバシのXF50mmF1の記事でこれを強く感じました)
フジのセンサーは高感度耐性の高さも特徴ですが(GFX、Xシリーズ問わず)、ピクセル等倍で鑑賞すると意外なことにノイズは多いんですよね。そしてこのノイズが綺麗なのです。これこそがフジの色味だったり立体感だったりの根源なのでは、と思っています。このことに気づいたのは最近流行りのAIノイズ除去機能がきっかけ。ノイズ除去を使用すると、写真全体がノッペリツルンとした無味無臭の漂白されたような画像になってしまって、全く使い物になりません。私はこの現象を「画素が死ぬ」表現しています。色味の良さと立体感という2つの翼を捥がれた哀れな姿です。
ちょうど良い写真がなかったので娘ちゃんの寝姿で比較を。暗い寝室で撮りました。ISO12800で撮影した写真の等倍画像です。左がオリジナルで右がLightroomのAIノイズ除去。私の感覚では右はもう写真の魂を失った様に感じます。
話が逸れました。 GF35-70mmはレンズの解像力が1億画素に対応できる限界ギリギリの水準で、光量の多い好条件なら大丈夫なのですが、厳しい環境で撮影すると上で述べたノイズが大きく汚くなってしまいます。結果「スバラシ!」と「むむむむ?」の2面性を発揮することになるのです。明るい日中の屋外で撮れば確実なのですが…令和の時代に作られたのに、戦後の中判フィルムカメラみたいですね。特にレンズが暗いヤツ。
得意どころ
広角端
35mmで使う場合、オススメは晴天&順光の条件です。光量タップリで光線が素直、ついでにちょっと絞れば完璧です。そんな条件なら5年前のiPhoneでも撮れるって?それはその通りです。ただこのレンズの場合、好条件で撮影してすれば「GFXで撮る悦び」あふるる写真が上がってくるのです!!!焦点距離の重複するGF32-64と等倍鑑賞で比較しても違いは分からないでしょう。ここがベストエフォート、もしくは最大瞬間風速の計測ポイントです。
ブドウ園の夏。暑かったなぁ。でも後から見返して「撮って良かった!」と強く思えます。
性能的な話ではなく運用面の話ですが、こういう手元の写真?が撮れるのは大きな得意どころだと思います。とても便利。寄れるっていうのは、GFXをiPhoneたらしめている重要な要素なんですねぇ。ありがたやー。GF32-64mmでは撮れませんからね。撮れると撮れない、大きな差です。
望遠端
広角端に比べて望遠端は画質はパッとしません。コンパクトなズームレンズの宿命ですね。ただし「使う気にならない」「Lightroomで広角端の写真と並べるとサムネの時点で違いが分かって気が滅入る」という程ではありません。
ではどういった条件に活路があるかと言えば、それは絞り開放の最短撮影です。GF35-70mmを既にリサーチされている方は、この状態で撮影すると球面収差由来のホワホワが大発生する事はご存知でしょう。そのせいで評価が低いことも。
しかし個人的にこの特性は得意どころ、もしくはチャームポイントだと思います。ホワホワしているだけでしっかり解像していますし。ファーストレビューに比較画像を掲載しているので良ければご参照下さい。
一段絞ると一気に落ち着きます。この写真は開放で撮りたかったのですが、被写界深度の塩梅で絞った記憶があります。撮り方によってはボケ量も結構多いと思うんですよね。
苦手どころ
明確な弱点として感じるのはハイライト耐性とボケです。これはファーストレビューでも述べているのですが、1年以上使用しても明確な対策を講じることは出来ませんでした。よって弱点として挙げています。
ハイライトが粘らない
GFXを評価する際、強みとして「RAW現像耐性が高い」が挙がることが多いです。これは暗黙的に評価基準が35mmフルサイズセンサーで、また現像耐性の高さはセンサーサイズが左右するものだ、という考え(または幻想)が根本にあるのでしょう。私も現像耐性の高さはセンサー由来だと思っていました。
p>しかしこのレンズはハイライトがスパーンと軽快に飛びます。そして現像時にハイライトパラメーターを調整しても帰ってきません。大きく調整すると不自然になる始末…この傾向は夜の街スナップでネオン管を撮ったりすると顕著です。耐性の高、センサーサイズは大きな要因であることは間違いないと思いますが、レンズの性能や、(きっと)画像処理エンジンの性能等々、いろんな要素の複合なんですね。
夜スナップでネオン管撮ったりすると顕著なのですが、ハイライト飛んで失敗した写真は全部消してしまって見当たりませんでした。弱点に挙げましたが、輝度差を狙って撮ることは出来ます。結局は撮影者次第なのかも…うぅ。
ボケはそんなに…
ボケを発生させたい場合、なるだけ長い焦点距離を使い、絞りは開放、被写体に寄り、背景は遠くにする…というのがセオリーだと思います。このレンズの場合だと70mmF5.6でなるだけ寄ればいいということ。先にも球面収差がチャームポイントであることは述べているので、この条件は個人的におすすめです。しかし前ボケ後ろボケ共に綺麗ではありません。基本的に解像力は高いのですが、反面ボケの処理には気を使います。意地悪な条件で撮影すると一瞬で音を上げる感じです。
シンプルな背景を探せば大丈夫です。まぁボケを狙ってどうこうする類のレンズではないですね。
35mmは解像力とボケ力?の乖離が少な目な印象です。
寄れるレンズなので1人でこんな撮影は出来ます。ボケの具合は皆さんどう思われますか?もっと良いレンズがある事は分かった上で、必要十分な条件で使う分には良いと思っています。
GFX100S IIの衝撃
さて、ここまでのレビューは全編GFX100S(初代)と組み合わせて使った場合の内容です。私は発売と同時に2型を購入し、以降100S IIと組み合わせて使っていたのですが…撮影体験が大きく変化しました。AF(特に動体トラッキング)が別物なのです。これまでは動く子供を撮影しようとは思いませんでしたが、AF-C + トラッキングモードで結構撮影できちゃいます。暗めの屋内でもトライできます。これは衝撃でした。DCモーターも最低限しか動かない(最低限で合焦してくれる)ので「ビ!」と一言だけで済ませてくれます。これがかなり快適。汎用性が向上しました。ボディが変わってレンズが一皮剝けるってあるんですねぇ。
頑張ればカメラ任せでこんなシチュエーションでも撮れます。今までは撮ろうとチャレンジもしなかったのですが、100S IIになってからはやろう!と思える様になりました。技術の進歩は素晴らしいですね。
AF-C+トラッキング+顔&瞳認識モード、縦チルトさせたモニターで構図をなんとなく見つつ、並走しながら撮影。
おわりに
GFXシステムは純正レンズの選択肢がそこそこあるので、「確固たる己のスタイル」がある方でも、ある程度はそのスタイルを維持できると思います。しかし潤沢というわけでもないので、GFXを継続利用したい場合、機材に自分をアジャスト出来る人でないと楽しめないな、とも思います。性能の向上著しく便利機能も充実してきているのでつい忘れがちですが、中判カメラですからね。センサーが大きいとリスクもリターンも大きい。自然の節理でしょう。
今回取り上げたGF35-70mmというレンズ、強みと弱みがハッキリ分かれています。その辺りを理解して自分のスタイルに落とし込める or レンズに合わせて写真が撮れる方には万能レンズと言えるかもしれません。性能の上限を理解してそこをなぞる様に使うのが楽しいですね。ただしいつでもGFXシステムのフルパワーを発揮でるわけでもないので、ワクワク初レンズ☆にはオススメしかねます。幸運にも最大瞬間風速が吹けば良いですが、運悪く弱みの部分ばかり体験してしまうと「GFXってこんなもん?君にはガッカリだよ」になりかねません。それは買った人にもカメラにも不幸ですから。
私の場合はGF35-70mmに加え、GF45-100mとGF55mmが居てくれており、更にボディがGFX100S IIなので気持ちよく使えています。このレンズは打率が低いことが私の中ではネックだったのですが、100S IIになってかなり向上した印象で立ち位置が強化されました。家族や子供の写真を撮ることが多いからそう感じるのでしょうが…生活スタイルが変わったり予期せぬ事態で変化しない限り、この構成のまま運用していこうと思います。
ちょっと気になるなー→マップカメラでお安い!という経緯で入手し、1年使うか分からんなぁと思いつつもしっかり我が家で居場所を確保したGF35-70mmくん、購入時の想定以上に気に入ってちょっとビックリなくらいです。きっとこれからも活躍してくれるでしょう。その確信があります。おわり。