はじめに
GFX100Sで初めて搭載され、ここ最近はX-H2S、X-H2、X-T5といったXシリーズ第五世代のモデルでも使える様になったフィルムシミュレーション、ノスタルジックネガ。最近は私も気に入って使っています。フジフィルム公式サイトの謳い文句はこんな感じ。
1970年代、カラー表現の可能性を世界に提起し、芸術として定着させた「アメリカンニューカラー」の代表作を想起させる色再現を特徴とします。独特の諧調表現がハイライト部を柔らかくアンバーに描写する一方で、シャドウ部はディテールを残したままノリの良い色味を実現し、叙情的に切り取ることが出来ます。
ただ、GFX100Sを購入した当初はイマイチ使い勝手やスイートポイントが分からず持て余していました。自分の好みに合わせるためにコントラストや色温度をガッと触ったり。仕上がった写真は気に入っているものの、どこか胸の中で「コレジャナイ」感があったのは事実です。
この後半年ぐらいの間、フィルムシミュレーションはVelviaを気に入っていたこともあり、ノスタルジックネガには手をつけずに現像していました。しかし冬のある日、とうとう素のノスタルジックネガで気に入る写真が撮れたのです。これは大きな一歩でした。
この成功体験は大きな起点になり、2022年に入ってからは積極的にノスタルジックネガを使う様になりました。今年も後1ヶ月となり1年を通してノスタルジックネガで撮ってきたので、今回はその写真を季節ごとに振り返ろうと思います。
冬
初めてこのフィルムシミュレーションで好みの写真が撮れたのは、スカッと晴れた冬の日。綺麗な「空色」が出て嬉しかった記憶があります。
この頃はまだ試行錯誤中だったので「バイクが合うのか?」と思っていろいろ撮っていました。
晩冬。澄んだ空気に少し春の気配が混じる季節。空気が少しアンバーになる気がするんですよね。真冬は青空で成功したノスタルジックネガですが、この少し春めいた光は合うだろう!ということでご近所スナップで使ってみました。これも思惑通りだったので本格的にいろいろ試行錯誤するようになります。
ガラス越しに撮ったカフェの店内。GF80mmで撮った写真で1番気に入っている写真かも。
お気に入りのレストインデカンショにて。エビフライは茶色だからノスタルジックネガいけるのでは?という安直な考えの1枚。でも悪くないです。
アンバー=茶色=夕焼け がピタっと嵌った1枚。逆光だとコントラストがきついので、軟調なノスタルジックネガでもシャドウが浮きすぎず、むしろ丁度いい塩梅です。
春
季節は冬から春に移り変わり、冬の間の試行錯誤が季節変わっても通用するのか?を確かめようと、引き続きノスタルジックネガを試していました。内心冬の間で結構自信がついていたので「まぁいけるやろー」と思っていたのですが…なかなか上手くいきません。悪くないけれど冬の頃ほど特徴が出ない感じです。
まずは以前のご近所スナップと同じルートを回ってみました。が、どうにもスッキリし過ぎて冬の頃にあった柔らかな空気感が再現出来ません。春は黄砂や霞で空気の透明度が下がるのでもっと合っているかと予想していたのですが。湿度が低く空気の透明度が高くないとダメなのかなぁ?と考えていた記憶があります。
黄砂や霞が少なく爽やかな日に撮った空。ご近所スナップは思い通りでなかったですが、こちらは冬と同じ傾向で安心。
アメリカンニューカラーとは縁遠そうな屋内で試した1枚。窓からの光が柔らかく拡散している写真になって気に入ってます。
夏
春の撮影が迷走したのでちょっと自信を無くしてシーズンインしました。気温と湿度も高いのであまり良い結果は望めないだろうという予想。
ノスタルジックネガの良さはシアンとアンバーの美しさにあると考えています。2色の比率は問題ではなくて、質が重要なのだと。この法則が正しい場合、条件の良くない夏はシアンもアンバーも質が悪く、結果濁った写真になるのでは?と予想していました。しかし予測に反して夏の撮れ高は良かったのです。こちらの記事でも書きましたが「湿度の低い日はノスタルジックネガ」のルールに立ち帰り、夏としては低湿度の日に使う様にしたことが勝因かな。
こちらの3枚を撮影したのは9月の頭。残暑…というかまだまだ普通に暑い時期です。でもこの爽やかな光!夏の鬱陶しさとは全く無縁の雰囲気です。
この頃には結構ノスタルジックネガに合う(自分好みの)光が感覚的に分かってきて、色々レンズを変えて楽しんでいました。論理的には分析できないままですが…下の3枚はPENTAX67用の広角レンズSMC Takumar 6×7 55mm F3.5で撮りました。GFレンズほどの抜けと解像力はありませんが色に深みがあって好みの描写。特に2枚目のちっさい飛行機の写真は気に入ってます。
お次はMAMIYA645用のソフトレンズSEKOR SF C 145mmF4です。一見全て夢見心地になるものの、実は芯のある描写で気に入ってます。
秋
夏の間にかなり手応えを感じ、これなら秋も楽しく使えそう!と思いながらシーズンイン。ほぼ1年使ってきたのでもう苦労はしないはず。ですがそう思い通りに物事は進みません。いつも通り湿度の低い日に空を撮ると…なんか水色が薄いです。くすんでます。なんでなん?
夕方撮ってみるとめちゃめちゃアンバーが強いです。秋はシアン成分が極端に低い、もしくはアンバーが強過ぎて表面には出てこないのかも。ちょっと冬→春→夏とは勝手が違いますね。アプローチを変える必要がありそうです。
アプローチを変える、といっても難しいことはしません。シアンが弱いならアンバーを撮ればいいじゃない、ということです。ただし下手に撮ると思いっきり茶色写真になってしまうので、狙いは「金色」です。輝く茶色、とも言えますかね。
そうそう、たけさんが作成されたプリセットをノスタルジックネガに合わせてみたりもしています。これも「輝く茶色」作戦の一環ですね。
写真はこの2枚でラスト。このフィルムシミュレーションは屋外で使うことが圧倒的に多かったのですが、屋内で試したものです。といってもどちらも「輝く茶色」作戦には変わりありませんが。
窓から差し込む光がメインなので屋外と条件は一緒かも。でも照らされた梁が綺麗でしょう?
こちらは室内灯で撮影。ここまでの写真とはちょっと毛色が違います。お店の中の光源は電球色が多いので、もしかしてノスタルジックネガと合うのでは?というお試し。ガラス瓶はアンバー、什器はシアンを感じます。確かホワイト優先オートWBだったはずなので、オートがいい仕事してるのかな?
おわりに
1年間使ったノスタルジックネガの写真を季節ごとに振り返り、その時のアプローチとセットでご紹介してみました。論理的に分析&再現性ありな法則を見つけられたわけではありませんが、「アンバーとシアンの質」「低湿度」「秋は輝く茶色」あたりのキーワードはお役に立つかもしれません。せっかくフィルムシミュレーションは沢山あるので、写真1枚1枚に合った物がチョイス出来る様になりたいですね。「私、どのフィルムシミュレーションも得意ですよ!」と言えることを目指して頑張りましょう。